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第462号 1996(H8).06発行

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米の食味向上を目指した土壌管理のあり方

石川県農業総合研究センター
生産環境部
土壌環境科長 北田 敬宇

 米流通の多様化および産地間競争の激化が予想されるなど,米をめぐる情勢が大きく変様しようとしている。このため,石川県では,作付年次および生産地を問わず,品質・食味の高位平準化が達成されるよう,良食味米生産技術の確立が求められている。現在,玄米タンパク7%以下,整粒歩合80%以上,1等米比率90%以上を目標とする,石川米品質向上7・8・9運動が展開されている。

 ここでは,石川県農業総合研究センターにおける調査データを用いて,施肥・土壌条件が米の食味に及ぼす影響を解析し,米の食味向上を目指した土壌管理のあり方について検討したので紹介する。

1.米に含まれる理化学性成分と食味

1)米に含まれる化学性成分と食味との関係

 コシヒカリ現地試験における,施肥管理条件の異なる160点の米について,食味官能試験による食味評価値と米に含まれる化学性成分との関係について統計解析し,結果を図1,2に示す。米の食味が窒素,リンなどの化学性成分により60%説明することができ,なかでも窒素,すなわちタンパク含有率が食味に大きな影響を及ぼし,その値が7%を越えると食味が著しく低下する。

2)食味変動要因の解析

 県内9農業普及センターのコシヒカリ作況田における73点の米について,食味変動要因が施肥管理,土壌および気象条件から解析された。米に含まれる理化学性成分の内,タンパク含有率およびブレークダウンの食味に及ぼす影響が大きい。タンパク含有率は,土壌の窒素肥沃度よりも追肥窒素量の影響を受けやすい。一方,ブレークダウンは,米に含まれるデンプンの粘度の程度を表わすが,登熟期間中の温度に対する影響が,単年度では小さいが,温度差の大きい年次閉でみると大きい。

 このように,食味変動要因が浮き彫りされたものの,これら要因の食味に及ぼす年次変動が大きく,食味モデル式の策定には至っていない。

3)水稲多品種における食味モデル式の策定

 品種,移植時期および施肥管理条件の異なる13品種の米について,食味モデル式の策定が検討された。食味モデル式の構成要因には,米に含まれるタンパク含有率,Mg/K比(マグネシウム/カリウム),白米吸水率およびD/C比(ブレークダウン/コンシステンシー)が挙げられ,これら要因を取り込んだ食味モデル式が策定された。D/C比は,炊飯後のデンプンの老化程度を表わす。この成果は,栽培管理指針としての活用が困難であるが,良食味米の品種選抜に効果が期待されている。

4)今後の課題

 品種を越えた,高精度の食味モデル式を策定し,これを基にした食味計の開発を行う。

 地域の土壌および気象変動に対応した栽培管理指針を策定するため,土壌・気象条件が食味変動に及ぼす影響を定量的に把握する。

2.子実生産と,米に含まれるタンパク含有率

1)穂ヘ転流する光合成産物量と,タンパク含有率

 米には約80%のデンプンを含むが,籾の数が多いと,この籾1粒当りの配分量が少なくなり,その結果,タンパク含有率が高まると考えられる。そこで,登熟期間において,稲体における炭水化物の動きを調査し,結果を図3に示す。炭水化物の籾への転流が,出穂後20日にかけて急速に行われ,タンパク含有率が低いものほど転流が速い。葉長が長く,葉色が濃い稲では,倒伏が助長され,この場合,籾への転流が阻害されるので,整粒歩合が低下し,乳白米発生率が高まる。

 このことから,タンパク含有率の低い米を生産するには,適正な生育量・籾数を維持し,同化能の高い稲体をつくることが重要となる。

2)粒厚と米に含まれるタンパク含有率

 米に含まれるタンパク含有率ごとの粒厚別タンパク含有率を調査し,その結果を図4に示す。タンパク含有率が低いものほど,大きい粒厚の割合が高い。これは,籾のデンプン集積量が多いと大きな粒厚の米が生産され,その結果,タンパク含有率が低下すると理解される。登熟の良否がタンパク含有率を大きく左右する。

3)今後の課題

 光合成産物の生産および籾への転流を促すための,養水分条件および稲の草型が,米に含まれるタンパク含有率およびタンパク組成の形成に及ぼす影響を明らかにする。

3.栽培管理と食味

1)窒素施肥法

 追肥窒素の施用時期・量が米に含まれるタンパク含有率に及ぼす影響について調査し,その結果を図5に示す。追肥の施用時期が遅いほど,また追肥窒素量が多いほどタンパク含有率が高まる。

 追肥窒素の稲体における追跡調査を,重窒素の標識肥料を用いて行い,その結果を図6に示す。水稲による利用率および穂への分配率が,追肥の施用時期が遅いほど高く,前述の試験結果を裏付けている。

2)有機質肥料,有機物の施用

 油粕を主体とする有機質肥料の,土壌中における分解過程を調査した結果,追肥施用後2~3週間にかけて,窒素が緩やかに有効化される。そこで,有機質肥料の施用時期・量が収量・品質に及ぼす影響を調査し,その結果を図7に示す。慣行のほぼ1週間前の施用が,食味を高めると同時に,収量も維持できる。

 同様に,有機物の連用について調査した結果,吸収窒素に対する収量の割合,すなわち吸収窒素の生産効率が高まり,また穂への分配率が低下し,米に含まれるタンパク含有率が低下する。したがって,土づくりによって土壌の窒素肥沃度を高め,追肥窒素量を減らすことが重要となる。

3)土壌改良資材の施用

 土壌改良資材の施用について調査した結果,苦土質資材の施用により,米に含まれるマグネシウム含量が若干高まり,食味が高まる傾向にある。石灰質資材の施用による食味に及ぼす影響は,判然としない。

 土壌改良資材の施用は,基本的には生育の健全化をねらうものであり,少なくとも土壌診断結果を基に施用量を加減し,土壌改良目標値を維持することが重要である。

4)生育・診断基準の策定

 これまでの施肥試験データから,収量が500kg/10a以上,米に含まれるタンパク含有率が7%未満のものを取り出し,表1に示すように,生育・診断基準として,気象概況別および土壌の種類別に,理想的な窒素吸収量および収量構成要素をまとめた。

 理想的な窒素吸収量の誘導には,水稲の栄養診断と土壌窒素(地力窒素)の有効化予測を組み合わせたシステム施肥法の導入により,効果が期待できる。気象不良年では,とくに籾数を制御する必要がある。

5)水管理

 落水時期が,収量・品質に及ぼす影響について調査が行われた。その結果,出穂後25日の早期落水により,収量が5%減少し,乳白および茶米の発生など外観品質が低下する。また,米に含まれるタンパクおよびアミロース含有率が増加し,食味が低下する傾向にある。アミロースは,デンプン構造上の1形態であり,品種固有の値を示す。

 出穂後の水管理は,収量・品質に及ぼす影響が大きいので,出穂後ほぼ35日まで落水しないことが重要である。

6)今後の課題

 有機物連用に応じた土壌診断,排水性改善による根活力の維持・向上,土壌と作物間における養分循環の円滑化など,これらに配慮した効率的な土づくり対策を検討する。

 また,養水分の供給時期・量が,根活力および登熟に及ぼす影響を明らかにし,土壌・気象条件に対応した養水分管理指針を策定する。さらに,これら情報を統合した水稲生産システムモデルを開発し,地域展開を図る。

4.多様な栽培管理様式と食味

1)基肥一括施用

 緩効性肥料を用いた基肥一括施用が,収量および品質に及ぼす影響を調査し,その結果を図8に示す。肥料の窒素供給が遅れ,とくに全層施肥では葉色が低く推移するが,収量および品質の慣行区に対する差異が小さい。すなわち,全層施肥では,稲体の同化機能がより高いといえる。

 基肥一括施用の苗箱施肥では,表2に示すように,吸収窒素の生産効率が高まり,米に含まれるタンパク含有率が低下する。苗箱施肥は,基肥と追肥窒素を床土と層状にして,育苗箱へ一括施用する方式であり,田植えにより施肥作業が同時に行える利点がある。ただ,リン酸,カリウムの施肥は,別途行うことになる。

2)不耕起栽培

 不耕起栽培では,土壌が攪乱されないため土壌が酸化的に推移し,土壌窒素の有効化が遅延したり,リン酸の有効化が抑制される。このため,表2に示すように,窒素吸収量が生育初期では抑制されるが,生育後期では逆に増加して登熟が向上する。その反面,米に含まれるタンパク含有率が高まりやすい条件にある。

3)直播栽培

 直播栽培では,一般に苗立を確保するため,播種量が多くなり,生育むらや倒伏の問題が発生する。そこで,品種・苗立の違いが収量・品質に及ぼす影響について調査が行われた。その結果,「ふくひびき」および「石川12号」では,苗立本数による品質・食味の差異は認められないが,「キヌヒカリ」では,苗立本数が多いほど米に含まれるタンパク含有率が低下し,品質・食味が高まる。

4)今後の課題

 多様な栽培管理様式における稲の草型,葉色および土壌養分供給の特性を解明し,これら特性に応じた施肥管理技術を確立する。

 基肥一括施用および直播栽培において,施肥位置と耐倒伏性との関係を解析し,根域確保のための土壌管理法を確立する。また,窒素以外の養分について,一括施肥の可能性を究明する。生育むらに応じた施肥管理技術についても確立する。

5.最後に

 米の食味向上を目指した,土壌管理のあり方および今後の研究展開について検討してきた。この際,導入される技術が絵に描いた餅にならないよう,生産現場における技術の定着化・展開を念頭におき,その条件整備を図る必要がある。研究場面では,地域,土壌条件などに対応した技術のメニュー化を図り,生産農家への技術提供を具体化させることが緊要である。

 

 

土壌窒素発現量(乾土効果)の予測とその利用

宮城県農業センター 土壌肥料部
総括研究員 中鉢 富夫

緒言

 宮城県の水田地帯は河川地帯に発達している。そのため,泥炭・黒泥土など未分解有機物に富む低湿で重粘な土壌が多く,全体の90%以上を占める。これらの土壌は窒素の発現も著しく不安定であり,水稲栽培も難しい土壌であるが,未分解有機物が多いことは土壌窒素の発現量が多いことであり,見方を変えれば貴重な資源でもある。

 また,同じ土壌でも春期の土壌乾燥程度によって,移植後の土壌窒素の発現が大きく変動する事も“乾土効果”として古くから知られている。しかし,乾土効果は実際場面での基肥量の決定には全く応用されていない。土壌乾燥程度把握の困難性が原因であるが,この解決のため潅水前の作土の土壌氷分,湛水培養による窒素発現量等を調査するとともに,簡単,迅速に土壌乾燥程度や窒素発現量を予測する方法として,春期雨量との関係を検討したところ相関は極めて高く,優れた実用性が認められた。本稿では予測の方法とその利用結果等について紹介する。

材料と方法

 稲体や土壌窒素の分析を継続している現地生育調査圃,5土壌型,計12地点について,5年間にわたり各年とも4月下旬~5月上旬の潅水前に作土を採取し,水分含量を計測するとともに30℃で4週間の定温湛水培養を行い,土壌水分含量と窒素発現量の関係を解析した。

 解析は①土壌採取時点の水分含量と窒素発現量の関係,②土壌水分含量と最寄りアメダスの前年11月以降の月別降雨量との関係,③アメダスの降雨量から直接に窒素発現量を推定する方法を検討した。

 なお,厳密な乾土効果の量は乾燥土壌の窒素発現量から湿潤土壌の発現量を差し引いた値を言うが,水稲は乾燥土壌や湿潤土壌の窒素など区別なく吸収するので,特に断らない限り差し引きしないで乾土効果と呼ぶとともに,窒素発現量の多少から基肥窒素の増減肥率を勘案することとした。

 また,雨量も合計雨量と窒素発現の関係を見ているが,降雨は連続して降る場合と何日も降らない場合などいろいろであり,規則性は無い。

 したがって,厳密には降雨量とともに降雨間隔も考慮する必要があると考えられる。しかし,計算が著しく煩雑になること,実際の施肥設計は10a当たり窒素3kgとか4kgとかの単位での経験的に安全な量が決められる場合が多いことなどから,雨量が少ない場合は降雨間隔も長くなると想定して合計雨量での窒素発現量推定法を検討した。なお,供試土壌の一般的性質を表1に示した。

結果と考察
1.土壌窒素発現が急増する水分点

 土壌は乾燥するほど窒素発現が多くなることは昔から知られているが,それを乾土効果として体系化したのが塩入1)らである。また,鳥山2)は北陸地域の各種土壌を用い湛水前の土壌水分と窒素発現の関係を詳細に調査しているので,本試験もその方法に準じて行ったが,サンプリング回数も少ないので,土壌乾燥による窒素発現水分点は土壌水分が異なっても発現量が増加しない(平衝している湿潤土壌の発現量)2点間の延長と,窒素発現が急激に増加する2点間の交点を窒素発現水分点とした。

 一部土壌の結果は図-1のとおりである。土壌窒素発現が急激になる水分点(含水比)は土壌型による変動が非常に小さく,ほぼ18~20%程度であった。

 鳥山2)は窒素発現水分点は細粒質土壌で26~33%,中粗粒質土壌では16~18%であり,土性によりやや異なるが水分張力(pF値)では土性の違いによらずpF4前後である,としている。

 本試験の結果は中粗粒質土壌では同じ程度の結果であったが,細粒質土壌では窒素発現水分点がやや低かった。

 本県の積雪期間は日本海側に比べて著しく短いことなどから,乾土効果が発現しにくい傾向にあるためと考えられる。

 本試験でも泥炭土や黒泥土等有機物含量の多い一部の土壌では,土壌水分30%位の乾燥程度で窒素発現量が増加する傾向が認められているので,発現量の多少や乾燥のし易さ等は,ある程度,土壌中の有機物含量や有機物の質に影響されるものと考えられる。

 本試験ではpF値の調査はないが,土壌水分20%以下では植物が利用できない化合水が主体であり,作物の生育は不可能であるし,pF4は植物の永久萎凋点でもある。

 この強い乾燥によって土壌中の菌類等微生物が死滅,変成を来たし,易分解性有機体窒素が増加して乾土効果が発現するものであろうが,かなり強い脱水乾燥が必要と見られる。

2.現地土壌の乾燥程度と窒素発現量の関係

 採取時点の土壌水分と窒素発現量は表-2,3のとおりである。

 土壌水分を見ると,強グライ土,黒泥土の水分含量が高かったが,窒素発現量も多い傾向を示した。グライ土や灰褐色土の水分含量は低かったが,窒素発現量はそれほど多くはなかった。また,年次間で見ると昭和63年と平成2年の土壌水分は高い傾向であり,平成3年,平成5年の土壌水分は低く,窒素発現量も多かった。

 全体的には土壌水分と窒素発現量は負の関係にあり,強グライ土壌のみは直線回帰であったが,その他の土壌は負の2次式で,かなり密接な関係が認められた。

 黒泥土や強グライ土はかなり高い土壌水分でも窒素の発現量は多い傾向にあったが,グライ土や灰褐色土は高水分での発現量は少なく,約30%以下の水分に乾燥した場合には急激な発現の様相を示した。

3.本予測法の実用化

(1)圃場における土壌水分の推定法

 乾土効果の推定は圃場における土壌の乾燥程度の推定が重要なポイントであるが,農家段階で簡便,迅速に圃場の乾燥程度を推定する方法として,最寄りアメダスの雨量との関係を検討した。

 最寄りアメダスの雨量は水稲収穫後の11月から翌年4月末まで,各月の合計雨量を調査し,採取時点の土壌水分との相関関係を検討した。その結果,3,4月の合計雨量と土壌水分の相関が最も高かった。土壌採取直前の4月の雨量との相関は高かったが,3月の雨量が多い年は相関がパラついた。したがって,3,4月の合計雨量の方が年次に関わらず相関が安定する傾向にあった。

 雨量と圃場の土壌水分は各土壌型とも極めて高い正の相関関係が認められ,次の2次式で近似できた。

 予測式 Y=A(0)+A(1)X+A(2)X2
 (但しY=作土の土壌水分(%),A(0)=定数,A(1),A(2)=係数,X=最寄りアメダスの3,4月合計雨量)

 なお,定数や係数は表4に示した。グライ土,強グライ土の相関係数は著しく高かったが黒ボク土の相関はやや劣った。その原因は明らかでないが,雨量のみでなく土壌中有機物含量の違い,土性及び圃場位置による排水性等が微妙に影響しているものと考えられた。

(2)圃場における土壌窒素発現量の推定法

 上野3)らは風乾土と湿潤土の混合割合を変えて窒素発現量を調査し,風乾土の混合割合から乾土効果が推定出来る,としている。

 また,鳥山2)も乾土効果は窒素発現水分点以下に乾燥した乾燥土塊と湿潤土塊の混合系であり,両土塊を混合して代掻きを行っても,窒素発現量の増加は乾燥土塊単独からの寄与だけで,湿潤土塊の発現量には影響を与えないとしている,など各種の推定法が提唱されているが,農家が簡便,迅速に推定出来ることが理想である。

 雨量と土壌乾燥程度が極めて密接な関係にあることを利用して,雨量から直接窒素発現量を推定する方法を検討した。

 圃場における土壌水分の推定と同様に,最寄りアメダスの前年11月から翌年4月までの各月毎,及び2~3カ月合計雨量と窒素発現量との関係を調査した。結果は表-5のとおりである。

 また,窒素発現量の予測値は,同じ土壌型の地域間差より,土壌型の違いや,年次間差(変動係数36~68%)がはるかに大きかった。奥羽山脈の東面に位置する宮城県だけの春期気象の特徴かも知れないが,このことはアメダス雨量や土壌乾燥程度の地域間差は比較的小さく,年次間差や土壌タイプ間差が大きいことを示している。

 雨量と窒素発現量は,雨量が多いほど発現量が低下する負の関係にあり,強グライ土壌のみは直線回帰であったが,その他の土壌は2次回帰式で近似できた。なお,表-5によれば黒ボク土は他の土壌に比べて相関がやや低く,窒素発現量も少ない傾向にあった。乾燥程度は黒泥土並みに乾いているので,発現量の低下は山手の低温地帯にあるため,易分解性部分が少ないことに原因があると推定される。

 雨量と窒素発現量の関係は土壌水分と同様に3,4月合計雨量との相関が安定して高かった。11月とか1月など時期が早いほど発現量との相関は低く,3月4月等時期が遅いほど相関は高まる傾向を示した。このことは,早い時期の乾燥は乾土効果発現への影響度が低いことになる。

 鳥山2)は一度窒素発現水分点以下に乾燥した土壌が再度湿潤化した場合,湿潤化しない場合に比べて窒素発現量が低下し,易分解性有機物の硝酸化成作用により流亡する事,硝酸化成作用は温度が高いほど促進し,10℃が目安になること等を実験的に認めている。

 圃場の場合は作土全層が窒素発現水分点以下に乾燥することは無い。窒素発現水分点以下に乾燥するのは表層の極一部分であり,作土下層は湿潤状態が普通である。

 したがって,乾土効果発現の多少は作土表層からいくらの深さまで乾燥したかによる。

 表層は乾燥もし易いが,少ない雨量で湿潤化もし易い。そのため,表層は降雨毎に夥しい硝酸化成と流亡を繰り返しているものと思われる。

 また,本試験による採土方法は作土部分を垂直に採土し,攪拌して作土全層の平均水分を炉乾法で測定している。作土土層と下層の水分は大きく異なるのが普通なので,平均水分が同じでも窒素発現水分点以下に乾燥した土塊の割合が多い場合は,作土全層が平均に乾燥した場合より窒素発現量は多くなると考えられる。

(3)施肥設計への適用法(減肥率の策定)

 調査期間中のアメダス雨量(3,4月合計雨量)は年次や地点により変動があるが,70~280mmの範囲であり,平均は174mm程度であった。

 この平均雨量に近い場合を平年の施肥窒素量とし,雨量の多少による窒素発現量の増減程度から雨量が少ないほど窒素成分を減肥し,雨量が多い場合は増肥する方法を考えた。ただし,2次式でが近似しているため,雨量が多い時は窒素発現量の予測値がマイナスになるので,雨量が200mm以上の時は一定とすることとした。

 増減肥の目安を表ー6のように策定した。土壌型によって多少異なるがおおよその目安は,合計雨量が100mm以下の時は平年基肥窒素量の20%減肥,雨量が100~120mmでは10%減肥,雨量が130~180mmでは平年基肥窒素量とし,雨量が190mm以上では10%増肥することとした。

 なお,雨量によっては発現の予測値が10mg/100gを超えて,無窒素でも過剰な窒素量になるが,乾土効果の窒素は田植後30日程度の期間に発現する窒素の総量であるから,減肥率が高すぎると,初期の窒素が不足する懸念があるし,乾土効果が出やすい土壌では経験上,平年の基肥窒素施肥量が少なくなっていることなどを考慮して,減肥率は最大20%程度に止めることとした。

 一方,雨量が多い場合は乾土効果はほとんど期待できないので,初期生育確保のため基肥窒素を10%程度増肥することとし,乾土効果の多少に関わらず安定した生育の確保をねらいとした。

 農家が自分で減肥率等を決定する場合,気象要素は農試と地域普及センターがオンラインで結ばれているので,雨量については農業試験場(農業センター)又は地域農業改良普及センターに連絡すればデータの即時入手は可能であるし,水田の土壌型等は各農業協同組合毎に調査されている“土壌,施肥対策図”等から確認できる。

4.作況試験における乾土効果発現予測

 前述の予測法を用いて作況試験における昭和50年から平成5年までの乾土効果窒素の発現程度を推定した。結果は図-2のとおりである。

 乾土効果の全平均値は3.5mg/100g程度であるが,乾土効果が多い年5mg前後,少ない年は2.5mg程度であった。

 乾土効果の発現が多い年は,初期生育も促進し豊作になる要因も多いと考えられるが,作況指数を見ると,乾土効果の多い年と少ない年各4年間の平均値では,乾土効果の多い年は少ない年に比べて0.5ポイント低い作況指数であり,豊作にはなっていない。

 つまり,乾土効果の多いことが収量的に活かされていないことになる。勿論,収量は乾土効果のみでなく,長い生育期間の気象変動に対応した管理の結果であるが,乾土効果の増大による生育量の増加が冷害や倒伏を助長する結果になり,気象変動に対する対応を困難にしているものと考えられる。したがって,乾土効果の発現量に対応した施肥量の調整は生育調節を容易にして,安定多収を確保する上で重要と考えられた。

 なお,乾土効果の多い年は初期の窒素吸収が高まっているかどうかを確認したのが図-3である。

 生育や窒素吸収は田植後の気温に大きく影響されるので,平均気温の平年差をX軸に取り,田植40日後の窒素吸収量の平年比で各年を比較した(平年比とは過去5年間の平均値に対する当該年の百分率である)。乾土効果の発現量が平年並みと予想された昭和63年と平成2年を線で結ぶと,ほぼ,気温の平年差0と窒素吸収量の平年比100の交点を通過する。

 したがって,この2年の乾土効果の発現量はほぼ平年並みと見て良いと思われた。昭和63年の窒素吸収量の平年比が低いこと,平成2年の平年比が高いことは,全て田植後の気温が影響した結果と考えられる。

 昭和62年や平成3年は乾土効果の発現量も多く,田植後の気温も高かったため窒素吸収量の平年比は140~180と大幅に高まっているが,平成5年の場合は乾土効果の発現量は昭和62年や平成3年並みに多かったが,田植後の平均気温が約1℃低かったため窒素吸収が抑制され,平年比は115程度にとどまったと考えられる。何れにしても,乾土効果の予測値が多い年は窒素吸収量の平年比も指数関数的曲線を示し,明らかに高くなっていることは本予測法の妥当性を示すものと考えられた。

5.平成6,7年の土壌窒素発現予測

 乾土効果の多少は水稲の初期生育に大きく影響する。主要土壌型の平成6,7年と平年の土壌窒素発現予測値は図-4のとおりである。

 平成7年は春期(3,4月)の雨量が多く,平年の3割増し,前年の2.2倍で,県内稲作地帯のアメダス15地点の平均雨量は204mmを示した。土壌窒素発現量の全土壌平均は平年の約6割,前年の4割程度と推定された。

 したがって,県内に広く分布する低湿重粘土壌での平成7年の乾土効果窒素としての発現量増加は殆ど無かったものと推察された。このため,初期茎数増加は大きく抑制され7月以降の好天にもかかわらず穂数は少なく,全生育調査圃の平均穂数平年比は88%程度に留まった。

 特に被覆尿素等の緩効性肥料を主体とした施肥体系の場合は穂数が大きく減少し,収量は普通化成肥料の追肥体系より劣る事例が多かった。

 初期の抑制が大きかったため穂肥期の葉色も濃く,追肥も控えた事例が多かったが,基肥窒素を増やしたり,濃いめの葉色でも,好天予報に基づいて追肥に踏み切った場合は増収効果が著しく高かった。表-7はLP40とLPS100を3:7に配合したものを,緩効Aは8kg/10a,緩効Bは6kg施用(無追肥)を標準施肥体系(普通化成5kg+1kg+1kg)と比較したものである。

 例年の窒素適量(緩効B)では対照より穂数減少が大きく,収量は劣る結果であるが,多肥の場合は穂数減少が抑制され,10%の増収となった。

6.おわりに

 直播,不耕起栽培など水稲栽培法の多様化や肥効調節型肥料等,新しいタイプの肥料の流通も増加すると思われる。多様な栽培法に基づいた施肥法確立は勿論,土壌窒素発現量に対応した施肥体系は安定多収や施肥効率の面のみならず,環境保全と低投入持続的農業確立の面からも重要であり,直播や不耕起栽培への適用法等を検討していきたい。

引用文献

1)塩入松三郎,青峰重範,宇野要次,原田登五郎(1941)水田土壌乾燥の効果について,土肥誌.15:331-333

2)鳥山和伸(1991)水田の土壌窒素無機化量の年次変動予測とそれに基づく水稲の施肥管理モデル.北陸農試報.36:147-198

3)上野正夫,佐藤之信,熊谷勝巳,大竹俊博(1989)水田の乾土効果発現量の予測と水稲の生育反応.土肥誌.60:167-171